非エンジニア人材で内製開発を回す「市民開発」の立ち上げ
DX担当者
田中部長
- 業界
- 製造業
- 会社規模
- 201-500名
抱えている課題
IT人材不足で開発が外注頼みになり、スピード感に欠け、コストも膨らんでいる。現場からは業務改善のアイデアが出るが、IT部門のリソース不足で実現できない。市民開発で内製化を進めたいが、セキュリティやガバナンスの懸念もあり、どこから着手すればいいのかわからない。
専門家
山田さん
- 職種
- コンサルタント
対話ログ
田中と申します。当社は従業員300名の製造業ですが、IT人材不足で開発がすべて外注頼みになっており、小さな改善でも数ヶ月かかり、コストも膨らんでいます。最近「市民開発」という言葉を耳にしましたが、非エンジニアの社員でも本当にアプリ開発できるのでしょうか。正直、現実的なのか半信半疑です。
解決のポイント
スモールスタートで始める段階的アプローチ
市民開発は全社一斉展開ではなく、影響範囲が限定的で成功しやすい業務から始めることが鉄則です。日報管理、会議室予約、備品申請など、データ量が少なく失敗しても大きな影響がない業務を「パイロットプロジェクト」として選定し、成功体験を積んでから徐々に適用範囲を広げます。
ガバナンス体制の構築が成功の鍵
無秩序な開発は「野良アプリ」の乱立とセキュリティリスクを招きます。市民開発導入時には必ず以下の4点を定義します:①アプリ開発の申請・承認フロー、②アクセス権限の管理方法、③データ保存の基準、④開発後の保守体制。個人情報を扱うアプリはIT部門の事前承認を必須にするなど、明確なルールを設けることで、自由度とセキュリティのバランスを保ちます。
IT部門を「イネーブラー(実現支援者)」に位置づける
IT部門は市民開発の「門番」ではなく「支援者」として機能すべきです。初期の体制構築には工数がかかりますが、軌道に乗れば小規模な改善要望を現場で解決できるようになり、IT部門は基幹システムや戦略的プロジェクトに集中できます。
「種まき方式」による人材育成
全社員を対象にするのではなく、各部門から1〜2名の「市民開発リーダー」を選定し、集中的に育成する方式が効果的です。リーダー候補は、ITスキルよりも「業務改善への意欲」と「周囲への影響力」を重視して選びます。
フォロー体制とコミュニティ形成
研修後のフォロー体制が継続的な活動の鍵です。①定期的な勉強会(月1回程度)、②質問できるチャネル(SlackやTeamsで「市民開発相談室」)、③IT部門によるレビュー会(月次)の3点を設けることで、市民開発者を孤立させず支援します。
既存環境に合わせたツール選定
ツール選定の主な検討ポイントは3つです:①既存システムとの連携性(Microsoft 365を使っているならPower Platformが親和性が高い)、②コストモデル(ユーザー数課金か、アプリ数課金か)、③サポート体制(日本語ドキュメント、ベンダーサポート)。Gartnerは2025年までに新規アプリの70%がローコード・ノーコード技術を使うと予測しています。
投資対効果とコスト試算
Power Platformの場合、初期10名のリーダー育成でツール費用が月5〜10万円、研修費用が50〜100万円程度です。一方、実際の導入企業では年間2,000万円以上のコスト削減を実現した事例もあり、外注開発1件分の費用で継続的な内製化体制を構築できます。
典型的な失敗パターンと回避策
失敗パターンは主に3つです:①ガバナンス不在で野良アプリが乱立、②IT部門が関与せず放置、③経営層のコミットメント不足。特に③が重要で、市民開発を評価制度に組み込まないと、現場は本気で取り組みません。成功企業では、アプリ開発実績を人事評価に反映させています。
経営層への提案に含めるべき4要素
提案書には以下を盛り込むと説得力が増します:①現状の課題(外注依存のコスト・スピード問題)、②市民開発の効果(他社事例、ROI試算)、③リスク対策(ガバナンス体制、段階的導入)、④初年度計画(リーダー育成人数、パイロットプロジェクト)。